夜明けのすべて
この間、精神の不安定さについて人と話していたとき、相手の人が「そういう人って、自分が普通の状態じゃないことも分からないじゃない?」と言った。
素直にうん、と言えなくて、黙ってしまって、心のなかで「こんな世界で普通でいられるあなたの方が、多分おかしいよ」と思った。
戦争が起きて次々と亡くなっている人がいるのに、私はお腹が空くし、
雪の日、駅の地下で段ボールにくるまって眠っている人がいるのに、
私は立ち止まりもせず、自分の家に帰っていく。
毎日、どうして自分だけが無事なのか分からない。
その人たちは、私と別の世界の人じゃない。
同じところに一緒に生きているのだから、
いつか私にも同じことが起きる、と思う。
自分ではどうにもならない症状や考え方があるし、
どれだけ頑張っても絶対にできないこともある。
普通の世界で、自分が普通にできていると疑わない人にとっては
『夜明けのすべて』はよく分からないところもあるのかもしれません。
でも、わたしは本当に観てよかった。
二人がお互いを知ろうとしたり、
できることがあるかもしれない、と思ってお節介したり、
そういうことの根本にあるのは100%の優しさで、
100%の優しさだから、恋愛関係になることもなくて、
お互いを尊重しあっているのが伝わってきた。
夜景を星空のように撮ったり、
山添くんを包む麦色の夕日だったり、
映画的な美しさに感動しながら、
優しい物語を観ていました。